【カンプノウの憂鬱】

リヌス・ミケルスが導き、ヨハン・クライフが伝えたトータル・フットボールの系譜。ペップ・グァルディオラがバルサに残したもの。『あの頃』を思う憂鬱こそが、バルセロナの『今』である。

【カンプノウの良心】バルサイチ過小評価されるあの男。

まだ学生の頃、進路問題や勉強から逃げるように死ぬ程やり込んだウイニングイレブン2012。

リビングの最新薄型液晶テレビではなく、自分の部屋の片隅に置かれたクソみたいなブラウン管の中。

 

 

 

 

まだ無名、期待の若手としてFCバルセロナのベンチメンバーに登録されていたのは、

 

アンドリュー・フォンタス

マルク・ムニエサ

ジョナタン・ドス・サントス

ハビエル・エスピノ

ジェラール・デウロフェウ

クリスティアン・テージョ

 そして現Jリーガーのイサック・クエンカ。

 

90年前後生まれのカンテラーノ達だった。

 

 

 

 

ペップ・グァルディオラ監督の元、カンテラからトップに定着したシャビやイニエスタブスケツにペドロ。

彼らに続けと意気込むラ・マシア期待の新星たち。

 

 

 

 

しかしトップチームの壁は高かった。

 

 

 

 

 

直前のチャンピオンズリーグを制した後、敵将アレックス・ファーガソンに「欧州で最高のチーム」とまで言わしめたこのチーム。

 

 

 

 

中盤は泣く子も黙るシャビ、イニエスタブスケツの3人組。

控えにペップの秘蔵っ子チアゴ・アルカンタラがいて、夏にはセスク・ファブレガスまでやって来る始末。

 

前線ではテージョやクエンカはチャンスを掴みかけるも、さあいよいよ出世街道という所で最強MSNトリオ結成。

 

そもそもローテーションの機会が少ない最終ラインでは、ピケと本職MFのマスチェラーノが君臨。闘将プジョルも怪我がちながら、影からチームを支えた。

 

 

生え抜き外様問わず、ワールドスターがひしめき合う10年代前半のバルセロナメンバー。

目立った実績もない若手が割って入る幕は無く、彼らは一人、また一人とチームから消えていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

そんな荒波の中、誰も想像もしなかったような形で生き残った男がいる。

 

 

 

 

2010年の秋にトップチームデビューしたものの、控えとして過ごした歳月は5年を数える。

 

最激戦区であるインテリオールを本職としながら、しぶとく最強バルセロナの登録メンバーにしがみついてきたこの男。

 

 

 

迎えた2015年、当時両サイドで存在感を見せていたアドリアーノが負傷で離脱する中、レギュラーのダニエウ・アウベスまで離脱。

絶体絶命のピンチに当時の監督ルイス・エンリケが右のラテラルに抜擢。

その後3試合連続でラテラルとして先発に名を連ねると、この年なんと

 

エストレーモ、本職のインテリオール、ピボーテ、そしてラテラル。

 

計7つものポジションを無難にこなし、クラブW杯を含む超過密日程に苦しむチームのピンチを幾度となく救った。

 

2010年代唯一、そして90年代生まれで唯一といっていいカンテラからの成り上がり。

もうお分かりだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の名は、セルジ・ロベルト。

 

 

 

 

 

 

「クラブの俺に対するリスペクトが足らない」とアウベスがイタリアに去った2016年以降、バルサの最終ラインには当然のように"Sergi Roberto"の名前が連ねられるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

この男、実はMSN時代から『最もバルサで過小評価されている選手』であると思う。

 

 

 

 

事あるごとに、

 

「ラテラルにしては守備が弱い」

「彼がインテリオールではCLは獲れない」

 

と口にされるセルジだが、そもそも、2016年の時点ではこの2つの批判が一人の選手に向けられる事自体が異常だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

今でこそペップ・グァルディオラがドイツで確立してイングランドに持ち込んだ偽サイドバックという戦術の影響から、

 

ジョシュア・キミッヒ、ダビド・アラバ(バイエルン・ミュンヘン)や、

オレクサンドロ・ジンチェンコ(マンチェスターC)といった、インサイドハーフサイドバックを高いレベルでこなす選手は存在する。

 

ただ、ピボーテが最終ラインに降りてラテラルを縦に押し上げるのが伝統の形となっているバルサにおいて、Falso Lateral(偽サイドバック)の戦術が採用されたことはない。

 

 

 

 

 

 

 

チーム状況に応じて常に2つのポジションで準備し、戦術次第ではやっと掴んだラテラルの座をネルソン・セメドに譲る事もある。

 

それでも出場すればメッシが君臨する世界一忙しいバルサの右サイドを奔走。

縦の突破もピッチ中央でのカウンタープレスもお手の物。

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけに、

16-17シーズンのCL、PSGを制した"カンプノウの奇跡"決勝ゴールを叩きこむ"ドラマ性"や、

エル・クラシコで挑発に乗りマルセロに顔面パンチをお見舞いして一発レッドを喰らうなど、"人間味"も完備。

 

 

 

 

今や世界一のサイドバックを争う器になったキミッヒに無くてセルジ・ロベルトにあるもの。

それはイケメンすぎない、上手すぎない、いい人すぎない、の三拍子揃った『ちょうど良さ』である。

 

 

 

 

 

 

冗談はさておき、

 

 

前代未聞のポリバレント性と、愛すべき人間味、そして長年不安定な立ち位置に晒されながら今まで大きな移籍話の一つも浮上してこないという安心感。

 

 

 

 

これだけの要素を兼ね備えた選手の存在は奇跡といっても過言ではない。

 

 

バルサにおいてメッシ、それからブスケツは"換えの効かない選手"と称されることが多いが、

 

 

レジェンド二人に次いで換えの効かない選手は他でもない、セルジ・ロベルトである。